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編み図の著作権等について(見解)~1

皆さん、こんにちは。
今回は至極真面目な話です。

編み図に著作権はあるか?編み図を編んだ作品を販売してよいか?という疑問は度々ブログ界をにぎわしてきました。これは海外でも同じようで、「knitting pattern copyright」と検索すると、結構な数の記事がヒットします。さまざまな立場の人がさまざまな意見を呈しているのは日本と同じです。

先日お客様から当店の「ニットパターンは文章、編み図、写真等、その構成物すべてが著作権によって保護されています。パターンのご利用は私的かつ非営利目的での利用に限るものとします。」という利用規約の根拠を教えて下さい、というお問い合わせをいただきました。編み図を編んだ作品が販売されているのを見るとダメじゃないかと思うのだけれど、販売している人に対して、「こうこうこうだから禁止」ではないのか?と言えるような拠りどころが知りたいとおっしゃるのです。
私は法律の専門家ではありませんし、著作権の問題はとても複雑なので、白黒はっきりした答えを提示することは出来ません。以下はお問い合わせをいただいて、自分なりに調べ、このような解釈が可能なのではないかという「見解」を述べたものです。個人的にはパターンショップのオーナーとして、翻訳者として、デザイナーの方々の権利と自分の翻訳物の権利を尊重していただきたい立場にあることをあらかじめご承知おきいただきたいと思います。また、久々にまとまったことを書いたので、(何度も読み返し、書き直しましたが)混乱もあるかと思いますが、ご容赦願います。
一時に全文をアップしようかと思ったのですが、長くなってしまったので2回に分けて掲載します(前置きも長くなったことですし^^;)。

まずは編み図の定義から。太字はキーワードです。
編み図またはニットパターンとは、ニット作家(デザイナー)さんがデザインしたセーターなりマフラーなりの服飾品作り方を示した、文章や図でなどで構成される出版物ですね。文章や図の比率は日本と海外のものではずいぶん違い、編み方の説明には写真や、記号図などが付随していることもあります。

手編みのセーターができあがるには、まずデザインありき。デザインには創造性が必要であり、著作権の保護対象となると考えがちですが、セーター等の服飾品は量産が可能で、着ることを最終目的として作られるため「実用品」として位置づけられています。そして、実用品の「デザイン」は日本の知的財産法では意匠法で保護されることとなっています。しかし、アパレル業界では流行があり、商品サイクルが短く、商品単価も安いため、商品1点1点につき、時間とお金のかかる意匠登録をすることは実際にはほとんどありません(これが単価が桁違いの車などだと話は別なのでしょう)。
ただし、フランスでは服飾デザインも「服装および装飾の季節産業の創作物」として著作権法で保護され、”パクる“と著作権侵害で訴えられる可能性があります(http://www.cric.or.jp/db/world/france/france_c1.html#110)。これはフランスの重要な産業分野であるファッション業界を保護するのが目的なのでしょう。著作権の保護範囲というのは国によって違いがあり、何をどの程度保護するかは国の政治、経済戦略に関わる問題でもあります。例えばアメリカでは音楽、映画業界が手厚く保護されています。

さて、話が前後しましたが、著作権とはなんでしょうか。
日本の著作権法では、著作物は「思想または感情を創作的に表現したもの」と定義されています。文学、美術品や音楽など、それ自体で鑑賞の価値を有するものが著作物です。一昨年、あるニット作家さんが編み図を無断で営利利用した企業を著作権侵害として訴えたところ、編み図には著作権がないという判決が出ていますが、判決の事由の一つはデザインと編み方は「アイデア(≒思想)」であり、著作物に該当しないためとなっています。アイデアを保護したい場合は「実用新案登録」をしなければなりません(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20120117132801.pdf)。
他にも手づくりの分野で「編み図」に相当するものについて調べてみました。
例えば、料理のレシピ。
料理のレシピの著作権については次のリンクに女性弁護士による解説がありますが、料理の作り方としてのレシピは「アイデア(思想)」であり、アイデアは著作権の保護対象とはならないとあります(料理の作り方も、保護したい場合は「実用新案登録」をしなければなりません)。しかし、料理の作り方の説明としてのレシピは、写真を入れたりするなど、解説の表現に独自性があれば著作物性があるとみなされ、著作権で保護されるとあります。(http://r25.yahoo.co.jp/fushigi/wxr_detail/?id=20130906-00032042-r25

先ほどのニット作家さんは、ご自分の編み図は「図面の著作物」に該当すると法廷で主張されました。図面の著作物とは、日本の著作権法では、それ自体が芸術的価値のある(すなわち著作権保護の対象となる)建築物の設計図等を想定しています。
判決では問題の編み図は、「編み図における一般的な表示方法又は表示ルールに従い、他の編み図でも一般的に採用されている構成によって、原告編み物の作成方法を説明したものであると認められ、図面としての見やすさや、説明のわかりやすさに関し、特段の創意工夫を加えたものということはできず、図面の著作物としての創作性を認めることはできない」となっています。日本の編み図はいわば規格化されており、一定のルールに従い、その名のとおり図形式で描くことになっていますので、そこに表現性は認められにくいのかもしれません。
これに対し、先ほども述べたように、外国の法律では著作物と認められるものの範囲が異なる場合があります。
再びフランス著作権法を引き合いに出しますが(私の居住国の法律であり、当店の準拠法でもありますので)、フランスの知的財産法では著作物は「精神活動の産物(œuvre de l’esprit)」であり、「その種類、表現形式、価値又は目的のいかんを問わず、著作者の権利を保護する」ことになっています(http://www.cric.or.jp/db/world/france/france_c1.html#110)。
また、アメリカの編み物雑誌Vogue Knittingのアーカイブでは、ニットパターンの著作権に関する記事が2点(http://www.vogueknitting.com/magazine/article_archive/ask_a_lawyer_knitting_and_copyright.aspxhttp://www.vogueknitting.com/magazine/article_archive/a_matter_of_principle.aspx)公開されていますが、いずれも知財法専門の弁護士が回答しており、「(印刷物としての)ニットパターン自体は著作権で保護される」という点については論を俟たないようです。アメリカ著作権法では、ニットパターンは「言語著作物(言葉、数字またはその他言語的もしくは数学的な記号もしくは符号により表現された著作物)」として自動的に保護対象になるのでしょう(http://www.cric.or.jp/db/world/america/america_c1a.html)。
アトリエ・ニッツで販売しているパターンの原作の著作物性の根拠はここにあり、パターンの日本語訳は「著作物」の二次的著作物であるため、著作物となる、と考えています。当店のパターンの著作権については、これがお客様への回答となります。しかし、話をもっと広く、日本の編み図に戻しましょう。

判例では編み図には著作物性が否定されましたが、日本の著作権法でも、編み図が掲載された書籍は保護対象となります。
編み図一つ一つには著作物性がないとしても、書籍は表現性があれば「編集著作物」として著作権の保護を受けるのです。例えばデータベースは、内容自体はデータであり、著作物性がありませんが、その編集の方法に表現性が認められれば、保護の対象となります。この場合、「部品」を「組み合わせた人」、つまり編集者が「全体」について著作権を持つようです(岡田薫『著作権の考え方』岩波新書869、2003年)。
ただし、書籍の著作権法による保護の範囲は、英語では“コピーライト”というように、複製の禁止に限定されます。
皆さんが持っている編み物本にも複写(コピー=複製)についてのクレジットがありますね。
書籍のコピーが著作権侵害になるのは、本を購入すると、本というモノは自分の所有物になりますが、書かれている内容は自分のものにはならないからです。小説をコピーしてはいけないというのが例として一番わかりやすいでしょう。小説家は「出版権」という複製権を出版社に許諾し、出版社は小説という無形の著作物を書籍という有形の媒体に固定することで皆さんの読書に供しています。この複製権は独占的なものなので(著作権法第80条3項)、出版社以外の人間には複製は許されていません。
コピーの話ついでに言うと、誰にも身に覚えのあることだと思いますが、お友達に自分の持っている本の編み図をコピーしてあげるのも著作権侵害となるのです(スキャンなどのデジタル化やメール送信も「複製」に該当します)。著作権侵害をしたくなかったら、日本複製権センター(http://www.jrrc.or.jp/contract/personal.html)等の著作権管理団体を通して複写の利用許諾を取り、使用料を支払わなければなりません。図書館で編み物の本をコピーするのも、著作権侵害です。図書館での複写は研究目的に限定して許可されているからです(編み図の歴史的変遷について、あるいは編み物をめぐるディスクールについて研究する・・・などという場合はOKです)。当店の利用規約でもコピーに関してはさまざまな規定をしています(http://atelierbis.xsrv.jp/guide/)。

では、もう一つの大問題、「編み図にしたがって編んだものを販売する」はどうでしょうか。次回はここから話を始めたいと思います。

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